ハヤシの視点「ヨーロッパの貿易規制(RoHS指令)に対するハヤシの取り組み」
今回から3回に分けて、ハヤシが提供する定番商品をご紹介するとともに、その開発に関する取り組みの背景と、世界的に注目を集めているヨーロッパの貿易規制(RoHS指令)に対するハヤシの取り組みについてお話をしたいと思います。
今回は少しだけ専門的な話になる箇所がございます。なるべくわかりやすく書きますが、予めご了承ください。
ご存知かとは思いますが改めて説明いたしますと RoHS(ローズ)指令とは2003年に発効されたもので、人や環境に影響を与えないよう設けた特定有害物質の使用規制に関するEUの法律で現在では10の物質が「RoHS10物質」と呼ばれ制限されています。
大前提として塩化ビニルはとても人の言うことをとてもよく聞く素晴らしいプラスチックです。
とても加工がしやすく表現性が極めて豊かで、材料費が安く、衝撃や温度変化に強く、薬品による汚染や紫外線にも抜群に強いという、プラスチックの優等生と言える素材です。
しばしば、「鉄」は素材の王「ガラス」は素材の女王と言われますが、私は、それならば「塩化ビニル」は素材のプリンスであると考えます。
そのこころは、鉄もガラスも塩化ビニルもある程度の重量感を持ち、人がコントロールしやすい素材的な特性を持ち、表現性が豊かで、しかもリサイクルが極めて簡単に行える(環境に与える負荷が小さくマテリアルリサイクルが行える)という共通の性質を有するからです。
神様は紀元前後年紀に人類に鉄とガラスの有用性を教えました。人類はその素材を利用して政治的、軍事的、文化的な発展を成し遂げてきました。
しかし愚かな人類は神様が教えてくれたその素材に勝るものを長い年月発見できませんでした。
19世紀になって、そんな人類にじれったくなった神様が耳打ちして教えてくれた素材、それが塩化ビニルなのではないかと思います。
さて、この塩化ビニルの素晴らしさを実現するための基となるのは、もちろん塩化ビニル樹脂(PVCモノマー)そのものの性質に由来するところが大きいのですが、
加えて加工しやすくするために生成された塩化ビニルの多くには、フタル酸エステル類(以下フタル酸)と呼ばれる素材を軟らかくすための物質(可塑剤)が一定の割合で混ぜられており、これが大変良い働きをします。しかし、これが今回のとてつもない大問題なのです。
元来、塩化ビニルはなかなか硬い物質なのです(ガラスと材木の中間のようなイメージ)。
ところが、フタル酸という魔法の油を混ぜることで、急激に軟らかくしなやかで皺の入りにくい、あの塩化ビニル特有の質感が生まれます。
そしてフタル酸は塩化ビニルと馴染みがよく、大変廉価で塩化ビニルの豊かな表現性を実現するための大切な大切な相棒なわけです。
しかし、そのフタル酸に対し、人体に摂取された場合の健康上の有害性がEU連合で指摘されました。これにより、EU連合ではフタル酸の使用がほぼ全面的に禁止されました。
すると、フタル酸が使用されている塩化ビニルはヨーロッパに持ち込むことができなくなるわけです。
また、その代わりの可塑剤(塩化ビニルを軟らかくする素材)として、フタル酸ではない素材(非フタル酸素材)を使用しなければならないという縛りが生じることになります。
そういう素材はいくつか存在するのですが、辛いのは、いずれもフタル酸に比べてとても高価であるという問題を孕んでいる点にあります。
一方、日本をはじめ、北米大陸、南米大陸、中国を中心とするアジア各国の多くは、フタル酸の有用性とEU連合が指摘する健康被害に関する有害性を天秤にかけた場合、有用性の方を選択するという立場を取っています。
つまり、ヨーロッパ以外の世界各地では、依然廉価で馴染みの深いフタル酸を使用できるという状況が続いていることになります。
製品の価格は需給バランスの相対によって決定します。当社が製造販売している商品群も、その例を逸脱しません。
それなら、商取引がグローバルになったからと言ってヨーロッパを無視すれば良い、フタル酸を是として製品製造を行える相手だけを選んで製品製造良いではないか?という問題提起もあり、国内流通が大半を占める当社の販売環境において、それはあり得る答えの選び方でもあります。
しかし、ハヤシはその道を選びませんでした!
世界のどこかにハヤシの商品を求めてくださるお客様がある限り、ハヤシはそのお客様に寄り添い続ける。
ヨーロッパでもアメリカでもアジアでも、ハヤシの製品を求めてくださるお客様がある限り、ハヤシは何かを考え、試行錯誤し、答えを出し続けていくのです!
次回 ハヤシ商店が出した答えとして開発した「かんばんケース」と「かんばん差し」に関する「ハヤシの視点」をお届けします!