ハヤシの視点「廃業してゆく塩ビ加工業界の現状」
今回は「廃業してゆく塩ビ加工業界の現状」をテーマに少し辛口なお話をしたいと思います。
ハヤシは自動車産業・自動車部品産業をはじめとする各種工場内で使用される塩ビ製品の生産を得意としておりますが、
今回から数回にわたって、それ以外の分野、特に一般の消費者の方々が実際にご購入するもの、
または一般消費者の方々の目に触れ、手に取られることを目的とした商品の開発や生産性向上に関するお話をしたいと思います。
さて、それらの話をする前に、今回は塩ビ加工業界をめぐる構造的な課題についてお話しします。
井伏鱒二の短編小説に「山椒魚」という有名な作品があります。渓流の岩穴にぬくぬくとのんびり住んでいた山椒魚が、自分の体が大きくなってゆくことに気づかず無頓着で呑気に暮らしているうちに、いつの間に成長しすぎて頭がつかえるようになり、気が付けば岩穴から出られなくなって苦しむというものです。
塩ビ加工業界はこの山椒魚の話ととてもよく似ています。
昔ながらの塩ビの小物製品や袋状製品は、ごく零細な作業所で生産されてきたものがほとんどです。
なぜ零細かというと、塩ビの加工性の良さ、生産機械の簡便さや安さ、原料費の小ささによって、
生産規模を頑張って大きくする必要がないからであります。
そして、加工業者はそこそこ儲かり、比較的に気楽に製造業を営むことができたようです。
ハヤシが大きくこの業界に踏み込む少し以前の話です。
しかし社会は変化してゆきます。それも刻一刻と、速いスピードで。
ニーズ自体も、求められる品質、コスト、納期も全てが世界の趨勢や社会状況に応じて目まぐるしく変わります。
これに対し、気楽を旨とした塩ビ加工業界はそういった変化に対する敏捷さが欠けていたようです。
そしていつの間にか社会的な賃金と物価は手が付けられないほど大きく上昇しましたが、
変化対応に不慣れな塩ビ加工業者の多くは対応できないままズルズルと高齢化が進み、
次第に生産性が完全に不採算化して、後継者を残すことができず、廃業を余儀なくされてきました。
まるで、岩穴から抜け出ることのできない「可哀そうな山椒魚」のように。
そしてその結果、現代の水準から大きくかけ離れた現実味のない製品価格や納期が独り歩きするという状況となりました。
このような経緯で 今までの加工業者が廃業するので代わりに生産を引き継いで欲しいという多くの案件がハヤシに相談がありました。
しかしこういった案件はよくみてみると、仕事内容が合理化できておらず、複雑すぎたり、
価格が安すぎたり、納期が厳しすぎたり、不採算なものが大半です。
この状況を、従来の製品スペック、単価、希望納期をできる限り変えず、しかも当社の他の仕事への影響も最小化してこなしてゆく必要がありました。