ハヤシの視点「包装のノウハウを活かした製品開発」
今回は「包装のノウハウを活かした製品開発」についてお話をしたいと思います。
ある日、大変懇意にしていただいている商社様より、こんなご相談がございました。
それは、その商社様のお客様である大手自動車部品メーカー様では、部品箱に対するかんばんケースの抜き差しをロボットアームが行っているが、
コンベアを流れてくる箱の位置が安定せず、ロボットアームが狙った完全な位置に部品箱が流れてこないと、
軟質塩ビで形成されているかんばんケースはカード差しに差す際に腰が折れて、上手く差すことができない。
また、このような屈曲を嫌う場合多くのお客様では、片面を硬質の塩ビで作ったかんばんケースを使用したり、
かんばんと一緒に塩ビやPETの硬質板をケースへ封入して屈曲防止を行いますが、この方法ではロボットアームの差し込む力が強いため、板材が折れ曲がってしまう。
そのため、かんばんケースよりも腰があり、硬質板より柔らかいかんばんケースが欲しいというものでした。
この課題に対する答えの用意の仕方として、どなたでも「材料を厚くすれば良いのではないか?」ということが簡単に思いつくでしょう。
例えば、現在当社がかんばんケース材料として使用している原反厚みが0.3㎜なので0.5㎜ぐらいにすれば解決するのではないかと。
しかし、この答え方は次の3つの理由によってNGです。
①単層の塩ビは環境温度が上昇し、それに伴って材料の芯温が上がると急激に軟化して腰がなくなるので、
0.3㎜厚を0.5㎜厚に代えたところで、想定した効果が得られる保証がない。恐らく、あまり効果がない。
②表面にエンボス処理がされている梨地のかんばんケース素材が、厚みが増すことでクリア度が下がり、QR読み取りに支障を来す可能性が拭えない。
③具体的必要な数量が未確定あるため、過剰生産によって作成するイレギュラーな厚み材料の残りを、他の製品に仕向けることができない。
また、材料が足らない場合追加オーダーやリピートオーダーの対応が困難。
つまり、商品設計において確実でしかも客先の負担も弊社のリスクも小さくする方法で答えを導かなければいけません。
ここで包装技術に通じたハヤシによるハヤシの視点です。
ズバリ多層化の発想です!3層のかんばんケースを作れば良いのです!
通常表側と裏側の2層で構成されますが、その層間にフィルムを1枚追加して共抜き製袋するわけです。
これによって、かんばんケースの剛性は格段に上がり、しかも開口したとき仕切りによって2部屋ある包装系内の前側にかんばんを入れれば、
通常通りQRを読むことができ、しかも特別な材料を別注で作る必要がない。
また剛性を持っていても軟質材料なので、折れても元に戻るため問題が全くない。
お客様に大変ご好評をいただき、驚くほどたくさんのケースを製造販売させていただいた実例です。
開発して5~6年を経過した商品ですが、今でも折々に万単位でのリピートオーダーを頂いている息の長い商品です。
実は多層化されたものが高い強度や剛性を示すということは、包装業界の中では古くから知られた技術です。特段珍しい改善技術ではありません。
例えば、ポリエチレン袋は製造原価のうち原料費が非常に大きな割合を占めますが、
昨今の原料コストの高騰に呼応し、一部の技術力の高い企業ではフィルムの多層化によって、
つまり薄いフィルムを2層あるいは3層に重ねて構成し、単層の厚手の袋に対して層厚が著しく薄くても同等の剛性と強度を持たせるという優れた袋を開発しております
(例:シモジマ「ハイパワーゴミ袋」)。
ハヤシの改善案もこれらと類似する発想なのですが、かんばんケース製造にこれを応用できたことは、包装業界人としてのささやかな喜びでした。
今回は包装業界に長く関わってきたハヤシだから気づいたことのお話でした。