ハヤシの視点「先人の技術に学ぶ」
今回は「先人の優れた技術を模倣し再現することによる応用力の強化」についてお話をしたいと思います。
今回は今までとは少し目先の違うお話しです。
10年近く前、まだ旧社屋の中に塩ビ加工の工場を立ち上げて間もない頃、ある商社様(今でも大変懇意にしていただいているとても大切なお客様)が今後先細りの予見される仕入先さんに代わって、私どもをビジネスパートナーとしてお選びくださるという幸運に恵まれました。
そのお客様は大変大きなユーザー様に対して消耗品の窓口会社としての役割を担われており、
工場を初めて2年足らずで安定的にご購入下さる顧客を渇望していた私どもは感謝一杯の思いでお話を頂戴しました。
当時の仕入先さんから少しずつ仕事を移管下さるということで、私どもは商社様が管理されている商品を一つひとつ丁寧に図面化し、製法を研究して同等品の作成を行っておりました。
しかし、大変作るの難しい商品群がございました。
それは、チャック袋であるかんばんケースの袋の内側に別の小さなポケットが溶着されているの商品群です。
これは難しい。作り方がまるで判らない。というのは、まずその製品がとにかく安いのです。
チャック袋に製袋する前に材料にポケットを溶着しておいて、改めて手加工で内ポケット付のかんばんケースを作るという方法をとれば実に簡単に作ることができます。
しかし、この方法では自動機でかんばんケースを作ることができなくなり、価格が大きく跳ね上がってしまいます。
生産性も上がりません。設定されている単価は、どう考えても自動機で作られたかんばんケースに後付けで内ポケットを溶着する製法なのです。
しかも、預かったサンプル品はかんばんケースの外側からウェルダーを施し溶着しています。
それが、私の頭を余計に混乱させました。高周波ウェルダーの特徴として金型が当たる部分は溶着が貫通して多層が同時に溶着されるので、表面片側だけに溶着を施すことは通常は無理であると思われるからです。
けれど外側から溶着しているということは、やはりかんばん普通のかんばんケースを作っておいて、後付けで内ポケットを付けているはずです。
一体全体どうやっているのだろう?これができないと、私どもへの完全な商権移管は難しい。必死で考えなければいけない。
まだ、工場を始めたばかりで技術の乏しかった時分のことです。
その後私どもはとにかく研究に研究を重ね、この問題に取り組みました。
知見や技術があってヒントを授けて下さる方があれば教えを乞い、労と日を費やしました。
そしてついにある治具を開発することで、合理的な生産の仕方にたどり着きました。
企業秘密なのでそれをお見せすることはできませんが、今ではこの難しいかんばんケースを数千でも数万でも受注生産することができるようになっております。
後から分かったことですが、この小さなポケットにはICチップを入れてご使用になっているようです。
管理や処理の省力化・高速化はやはり日進月歩で進んでおります。
昨今、この商品の生産量は増えておりますが、これから需要はもっと伸びるかもしれません。
ところで、この商社様が取引されていた仕入先さんは、私も頭を悩まされましたがとても優秀な技術者です。
なぜ、先細ってしまったのでしょうか?それは、技術者である社長が急にお亡くなりになったからです。
工場の跡を引き継がれた方もおみえでしたが、会社継続のご意志が不明瞭であったため、余儀なく私どもへの移管を決められたとのことでした。
ただし、この亡くなられた社長は、本当に素晴らしい技術を持った方でした。
それは数々残された図面やサンプルを見てわかります。
だから、工場を初めて間もない頃、この方の多くの図面が私にとって、とても貴重な師でした。
この社長は会ったことはないですが、私の大切なかけがえのない先生です。
現にこの難しいかんばんケースも、この方が辿った道を探すことで完全に模倣し、より作ることができるようになりました。
そのため、同様の案件や類似の課題は、現在は苦も無く製作し解決しております。
そして、私どもの技術の重要な一角になっております。
ハヤシは決して思い付きだけではなく、先人の技術に学ぶ会社であるというお話しでした。