ハヤシの視点「チャックのないかんばんケース」

今回は「従来の「良さ」を残しながら抜本的な視点の変更で新たな使いやすさを生み出すものづくり」についてお話をしたいと思います。

ある日、古くからお付き合いのあるユーザー様より、なかなか重いご相談事がございました。以前よりこのメルマガでも、かんばんの運用の電子化が進捗し、e-かんばんとしてかんばんケースに内包されない一枚の紙片が工場の内外を流通している現状が生まれているというお話をさせていただいております。一枚の紙片が引き起こしたある大きな問題がお客様の現場で発生しました。それはこうです。

 そのお客様は飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を伸ばされ、従来のフォークリフトとパレットラックによる入出庫管理から、自動倉庫を利用した入出庫管理に切り替えられました。お客様の製造した製品はコンテナに入れられ、倉庫内ではそのコンテナは真っ暗で複雑な迷路を、e-かんばんのみカード差しに差して、目まぐるしく動き回ります。一枚の紙片は情報処理が済んだ後は安易に捨てることができるという利便性を持つ代わりに、物体として存在を示すのに必要な重さや剛性というものがありません。自動倉庫内で無数のコンテナが移動する中で、たった一度e-かんばんが自走する風によって飛ばされて落下するという事故が発生してしまいました。

これを重く受け止めたお客様は、e-かんばんを使い慣れたかんばんケースに入れて自動倉庫内を循環させることを考えられました。理由は次の通りです。
①かんばんケースは適正な重さと剛性という存在感を示す。
②チャックによる色分けもできるので、目視によるチェックが可能となり、品違いを防止できるからです。
③紙片を封緘するのでかんばんはケース外へ脱落せず、かんばんとケースが必ず1単位のユニットを構成する。

しかし、ここで問題が発生します。そのお客様では、e-かんばんを絶えず抜き差しし客先へ回さなければなりません。かんばんケースは本来一度かんばんを封入されたらそれほど頻繁に差し替えが行われるということはありません。

従って、チャックもそれを予定した構造にはなっていません。つまり、使い捨てであるe-かんばんのホルダーとしては不向きです。さりとてチャックによる色分けは、現場にとってはとてもわかりやすく、第一長年に渡って慣れている運用方法であるため、かんばん落下による品違いの可能性が露見した後は、ユーザー様ではこれを再採用したいというご要望が強くございます。

もちろん、インフラのシステムが完成している以上、抜本的に仕組みや運用方法を変えるということは現実的ではありません。

そこでハヤシの視点です。この案件に対して、チャックの開け閉めが困難なのなら、チャックの使用をやめてしまえばいい。
色分けがしたいのなら、かんばん差しの上部つまりかんばんケースのチャックに当たる部分を着色すればいい。
紙片の封緘機能や脱落機能が必要なら、封入した紙片が自ら落ちない構造にすればよい。

出来上がったのがこのケースです。このケースの機能は次の通りです。
①片面を硬質としたため、薄いのに剛性や形状の安定性そして存在感が強い。
②紙片であるe-かんばんの抜き差しは容易だが、ヘッダー部分が釣り針でいうところの返しの役割をするために、自ら落下することはない。つまり、人が意図して抜き差しを行いやすいが、意図しなければ抜けない。
③ヘッダー部分に着色がされているので、つまり、カンバンケースと同じ部分に色がついているので、慣れ親しみ運用法が標準化されているかんばんケースと同じ色分けチェックができ、間違えのない運用が行える

また、このかんばんケースはチャック相当部分が印刷であるため、文字などの印刷によって使用方法をより限定化させることにも成功しました。
 ユーザー様から、その元請様からも非常にご評価が高かったと大変およろこびいただき、開発以来幾年もの間、現在も長くご愛顧いただいている商品に成長しています。

今回は「チャックのないかんばんケース」の開発までのお話でした。